今なお新鮮に輝き続けるRWCプロジェクト(1992年~2001年)
(RWCPメモリアルを大幅リニューアル)
1992年から2001年までの10年間にわたり、明日を拓く情報基盤技術として実世界知能分野と並列分散コンピューティング分野に研究資源を集約して遂行されたリアルワールド・コンピューティング・プロジェクト (Real World Computing Project) ですが、その足跡を記録したRWCPメモリアル、プロジェクト10年史をこのたび大幅にリニューアルしました。
2004年に当時残されていたCD記録集をもとに、筆者が取り急ぎHP化したサイトですが、このたびデザインを一新しました。体裁、フォント、ナビ等を改良してかなり利便性が高まりました。
(RWC技術は高度情報化社会の根幹をなす重要技術)
今回の改訂作業にはかなりの労力を要しましたが、作業しながら改めてプロジェクト記録を読み返してみました。すると、予算面でも人員面でも相当な規模の研究開発が進められ、それぞれが超高速コンピューティング技術、光伝送技術、バイオコンピューティング技術、実世界計算技術、インターネット検索技術等々、すべて現在の高度情報化社会の根幹をなす重要技術群の先駆けになっていたことを再認識しました。
終了時、プロジェクト推進委員長であった東京大学教授田中英彦氏は「現在、米国・欧州・アジアなどの世界各国が情報通信分野を国の戦略的基盤とし、研究に注力している。RWCプロジェクトはまさに世界が今後目指す次世代の情報基盤を支える戦略的技術と言えるだろう。」とその先進性と意義を説きましたが、今でもこのコメントは正鵠を射たものと思います。
終了して14年になりますが、今なお新鮮に輝き続ける素晴らしいプロジェクトでした。筆者も短い期間でしたがこのプロジェクトに参画できたことに誇りを覚えます。
また、本プロジェクトの遂行主体は技術研究組合新情報処理開発機構(RWCP; Real World Computing Partnership)でした。もちろんすでに解散していますが、プロジェクト10年史には技術研究組合の定款などの規約集や、各種会議などの運営の記録が詳しく整理されています。新しく技術研究組合を設置する場合には大いに参考になるものと思われます。
(開発成果のまとめの紹介)
以下、膨大な資料の中からプロジェクトのまとめ(総論)の部分の記述を紹介します。RWCプロジェクトの足跡の一端を垣間見ることができます。
(RWC NEWS Vol. 18 Dec. 2000 より)
1.総論
本プロジェクトでは、実世界知能技術分野における情報統合と並列分散コンピューティング技術分野におけるシームレス並列分散コンピューティングという新しいパラダイムを提唱し、その実証システムを開発した。
これは計算機・ネットワークの普及、半導体・光技術の進展などを見越したもので、今後の情報処理技術の新しい潮流を作るものと考える。(図1-1) . 現時点での技術開発レベルを分けて見た場合、大部分は、以下②、③のレベルであり、本プロジェクトにおける、要素技術の確立という当初の目的は、概ね達成できる見込みである。 ,①基本技術を開発中のもの ②基本技術をほぼ確立し、研究室内での実験・ 試用レベルにあるもの ③プロトタイプの試作を終え、応用分野・利 用者を捜しているもの ④既に中間成果に対して実用化が進んでいるもの特筆すべきは、内外から高い評価を受け、プロジェクト中途で中間成果の実用化・利用が進んでいて、既に④の段階に達しているものがいくつか存在することである。これはプロジェクトの当初目的を超えた成果であると考えている。
2.情報統合
音声、動画、文書などの情報処理技術は、これまで別々に研究されてきたが、本プロジェクトでは、これらのマルチモーダル情報を統合して扱う新しい情報処理技術を研究し、多くの研究テーマを取り上げて、その有効性を世界に先駆けて実証した。
具体的には、音声・動画・静止画・文書を生データのまま扱い、相互検索を可能とするCrossMediatorの開発、自律学習システムとしての事情通ロボットの開発、ジェスチャ、顔などの認識を含むマルチモーダルな対話システムの開発、手話認識などの実例が挙げられる。
3.シームレス並列分散コンピューティング
シームレス並列分散コンピューティングシステムとは、LAN環境で接続された多数の計算機を単一計算機のイメージで使用できるシステムである。
この技術により、パソコンと高速光ネットワークによるスーパーコンピューティング、大量情報に対するデータマイニングサーバなど高性能のネットワークサーバが実現でき、更に、ヘテロジーニアスな計算機上で動作するため、旧・新機種の混在やベクトルとスカラー計算機など異機種の計算機の協調も許される。今後のネットワーク社会でますます重要となる高性能、高信頼かつ経済性に富んだサーバ類の構築・利用技術を提供できよう。
本システムのソフトウェア上の核となるグローバルOS(SCore)やコンパイラ(Omni OpenMP)はフリーソフトとして提供されており、普及が期待できるとともに、フリーソフトビジネスの新たなレパートリを創るものとして期待できる。更に、並列応用プログラムとして、PAPIA(並列タンパク質情報解析システム)、異種シミュレーション技術の融合、データマイニングなどの応用技術も開発した。
また、並列分散コンピューティングにおいて重要となる光インターコネクションについては、世界最高の伝送能力を持つ大容量光スイッチング・インタフェースシステムを開発した。更に、100Gbps以上の伝送を可能とする将来の光インターコネクション技術として、高密度並列情報転送を可能とする面発光デバイスの試作などに成功した。
4.実用化・事業化
各研究室における研究成果は、多くの場合数年後に単品として、あるいは他のシステムに組み込んで使用される見込みである。
既に実用化されているものとしては、
(1)実世界知能技術分野において、既に中間成果の製品化が行われているCrossMediator、商用LSIシステムに採用された動的適応デバイス技術など。
(2)シームレス並列分散コンピューティング技術分野において、世界各国でシミュレーション計算などのため実用されているSCore Software System(グローバル並列OS)、多くのサイトからダウンロードされて使用されているOmniOpenMPコンパイラ、WWWサイトを通じて世界中から利用されているPAPIAなど。
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