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2016年12月

2016年12月27日 (火)

人工知能(AI)の台頭に動揺する将棋の世界

 ここ数年来の人工知能(AI)を活用した囲碁・将棋ソフトの棋力が著しく伸長し、プロ棋士との対戦で互角以上の成績を残すようになってきていることは、本ブログでも紹介済みです。
 このような状況の中で、日本将棋連盟(以下、連盟)が台頭する人工知能の影におびえて、無実のプロ棋士(三浦九段)に対して証拠の無いまま出場停止(12月末まで)の処分を断行してしまうという由々しい出来事(不祥事)が起きてしまいました。
(少々長くなりますが、本件の推移を末尾にまとめました。)

 今回の騒動に関する私の感想は次の通りです。

(1)間違っていた処分断行
 棋士にとって出場停止処分というのは、疑惑棋士という汚名を着せられること、対局出来ないことにより対局料の収入が絶たれることなど、棋士生命にも直結する極めて重大な事案です。調査委員会報告では、三浦9段に不正使用はなかったものの、竜王戦開幕直前に週刊文春に疑惑記事が載るという差し迫った事情があったため連盟の処分はやむを得なかったということですが、私はおかしいと思います。

 いくら切迫した事情があったとは言え、しっかりとした調査もせず確証の無いまま処分を断行するというのは絶対に間違っています。世間の常識からもかけ離れています。社団法人たる連盟は不当な疑惑から会員(棋士)を守ることも本来業務の一つです。それにもかかわわらず、今回は棋戦(竜王戦)を守るため一人の棋士(三浦9段)を犠牲にした構図になります。羽生3冠の「今回の件は白の証明も黒の証明も難しいと考えています。疑わしきは罰せずが大原則と思っています」とのコメントが妥当な考えだと思います。

(2)急がれる名誉回復、原状復帰、金銭補償
 不正使用がなかったという結論が出た以上、真っ先に三浦9段の速やかな名誉回復が急がれます。少なくとも連盟の常務会メンバー、疑惑を指摘した棋士たちが、しっかりとした謝罪を行い、さらに三浦9段の出場停止に見合った処分を受けることなどの自浄能力がまず求められます。

 また、出場停止の3か月の間、竜王戦を始め多くの棋戦で挑戦者交代や不戦敗などの扱いになっています。この不利益な扱いについてなかったことにして処分前の原状に戻すことが必要です。もし、戻すことが不可能なのであれば、被った不利益に対する金銭補償を行わなければなりません。将棋界の最高棋戦といわれる竜王戦は4,320万円もの高額な優勝賞金が出ます。この優勝賞金を含めて、さらには不戦敗になった他の棋戦の対局料に相当する補償は最低限必要です。さらに、不戦敗の扱いを勝局扱いと変更することも必要になります。

(3)人工知能の台頭と将棋世界の未来
 今回の騒動の根底にあった人工知能がプロの将棋棋士の頭脳を超えてしまった感のある状況に対して人間側がどのように向き合うかが今問われています。今回のように動揺して対応を誤れば、「弱い」人間の将棋対局からファンの心が離れてしまいかねません。また、対局料を提供するスポンサも、「弱い」人間よりも「強い」人工知能へと支援対象を移すという事態も想定されます。人間と人工知能が共存できる仕組みを作り上げてこそ将棋世界に未来があるということを肝に銘じて欲しいと思います。

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 時系列にまとめた本件の経緯
 (主に将棋ワンストップ・ニュースからの引用)

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(2016.7-2016.9頃)
 一部の棋士から、三浦9段が対局中に将棋ソフトを不正使用しているのではないかという疑惑が指摘される。

(2016.10.10)極秘会合
 渡辺竜王、島理事に加え、羽生善治三冠、佐藤天彦名人、谷川浩司九段(連盟会長)、佐藤康光九段(棋士会長)、千田翔太五段の7人が、島理事宅に集まり極秘会合。久保九段は電話で参加。

(2016.10.11)聞き取り調査
 常務会による三浦九段への聞き取り調査。渡辺竜王、千田五段も参加。連盟の会見によると、ここで三浦九段が休場を申し出たという。しかし三浦九段は「一方的に処分された」と反論、NHKインタビューでも「辞退するわけがない」としている。

(2016.10.12)処分断行
 竜王戦七番勝負が3日後に迫った10月12日、連盟からリリースが出される。内容は以下の通り。
  1. 三浦九段は2016年12月31日まで出場停止処分とする。
  2. 竜王戦七番勝負の挑戦者が三浦弘行九段から丸山忠久九段に変更された。竜王戦主催の読売新聞は了承済。

 連盟リリースだけではわからない報道機関からの情報。
  1. 三浦九段はスマホを使って不正をした疑いがある
  2. 過去に対戦した5人前後の棋士から指摘があった
  3. 三浦九段は不正を認めていないが、疑惑の中では指せないとして休場を申し出た
  4. 休場届が期限までに提出されなかったため(処分理由)、処分した
  5. 三浦九段は「濡れ衣。不正はしていない」とコメント
  6. 連盟はこれ以上調査しない

(2016.10.15)竜王戦始まる
 挑戦者が三浦9段から丸山9段に変更になった竜王戦が始まる。

(2016.10.18)三浦9段からの反論
 三浦9段からの反論文書が出る。
  1. 対局中のソフト使用は一切ない
  2. 連盟にはPC4台の現物と、スマホにインストールされた全アプリの「撮影画像」を自主的に提出
  3. 連盟はそれを精査せず一方的に処分した
  4. 連盟に離席の多さや一致率の資料を求めたが開示されず
  5. 今後も連盟の調査に最大限協力する
 同夜のNHKニュース(三浦九段の単独インタビュー)
  1. 竜王戦は将棋界最高峰の棋戦ですから、挑戦するだけで大変な名誉。辞退するわけがない
  2. (離席が多かった7月26日の久保九段戦は)その日は特に体調がすぐれなかったので、休んでいる時間が長かった
  3. そもそも携帯(スマートフォン)に将棋ソフトが入ってない
(2016.10.19)渡辺竜王のインタビュー記事
 週刊文春での渡辺竜王のインタビュー。
  1. 渡辺竜王は、三浦九段の自身との対局および過去の対局も調べ、指し手の一致、離席のタイミング、感想戦での読み筋などから「間違いなくクロだ」と確信
  2. 最悪のシナリオは『疑惑を知りながら隠していたという事が発覚する事だ』と判断
  3. 前述したトップ棋士による極秘会合があった
(2016.10.20)羽生3冠の訂正ツィート
 羽生善治三冠が、文春の記事に誤解を招く表現があったとして「今回の件は白の証明も黒の証明も難しいと考えています。疑わしきは罰せずが大原則と思っています」と表明。

(2016.12.26)第三者調査委員会による発表
 第三者調査委員会が会見。概要は「疑惑の根拠とされたものいずれも実質的な証拠価値は乏しく、不正の証拠はない」「出場停止処分の妥当性は、七番勝負開幕戦を直後に控えた状況で、連盟所属棋士および公式戦における規律権限の範囲内であり、当時の判断としてはやむを得ない」。

(2016.12.27)調査結果を受けての三浦9段の会見
 出場停止処分となった2か月半の期間について、三浦9段は「私個人だけなら耐えきれましたが、家族がひどい目に遭ったので思うところはあります。推測でいろいろ言われるのはつらいですし、悔しい思いはあります」と打ち明け、「元の状態に戻してほしい」と名誉や地位の回復を求めた。

(2016.12.27)調査結果を受けての谷川連盟会長の会見
 連盟の谷川浩司会長は「三浦九段につらい思いをさせたことを申し訳なく思っております」と謝罪。会長以下理事7人の理事報酬を一部減額処分とし、三浦九段に対しては処分期間中に不戦敗となっていた順位戦A級での残留などの措置を取って「名誉回復に全力で務めていく」とした。

以上


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2016年12月 4日 (日)

12月初旬の小石川植物園は鮮やかな紅葉・黄葉風景


 いよいよ年末の12月に入りました。最初の週末(12/3-4)は、先月下旬に初雪をもたらした寒波も遠ざかり、温暖な小春日和の天候でした。絶好の散策日和ということで、自宅近辺の紅葉見物に出かけてきました。小石川植物園や丸の内、本郷などの都心の街中は、ちょうど紅葉・黄葉の真っ最中で美しい風景との出会いに感動の連続でした。


 園の入口付近のメタセコイア林の風景です。相当にメタセコイア(スギ科メタセコイア属)の褐色が濃くなってきました。


 この日はイロハモミジ(いろは楓;カエデ科カエデ属)の紅葉が目を見張るように鮮やかでした。ここは大温室(工事中)の近くのイロハモミジの小径です。真赤なトンネルに変貌していました。


 古井戸の奥の方の林間地にもイロハモミジの木が生えています。すぐ近くの大樹の幹を背景にしてモミジの紅葉が空中に点描されているようです。


 また、周りの黄葉とのコラボレーションも見事です。



 日本庭園の手前の池の周りのメグスリノキ(カエデ科カエデ属)の大樹が生えています。散策路から少し外れているので気が付きにくいのですが、この日は驚くほど真赤に染まっていました。日本に自生するメグスリノキは、その名の如く葉を煎じて服用したり、洗眼すると目の病気に良いと言われています。


 メグスリノキの近くの空間の風景です。橙色のイヌブナ、黄色のヨーロッパカエデ、真紅のイロハモミジが調和して輝いていました。


 ハゼノキ(ウルシ科ウルシ属)もまだ紅葉が残っていました。


 サクラの木々の紅葉も見事です。イロハモミジの小径にオオシマザクラの木も交じっているのですが、鮮やかな橙色に紅葉していました。


 サクラの木の下はこのように褐色、黄色の落葉で一面覆われていました。重なった落葉を踏みしめてサクサクと歩くのも心地よいものです。


 フウ(楓;マンサク科フウ属)の高木の黄葉も鮮やかでした。黄葉が宙を舞っているようです。フウは中国・台湾原産の落葉高木で、木の葉の形が同じ漢字名をもつカエデに似ています。


 フウの高木の周りはスズカケノキ、ボダイジュ、ケヤキなどの巨木、大樹などが立ち並んでいます。この空間の一角の風景です。紅葉、黄葉、落葉などこの季節の風情たっぷりでした。


 園の入口近くのイチョウ(イチョウ科イチョウ属)の大樹の黄葉風景です。大迫力です。


 最後に日本庭園の一角の赤い建物(旧東京医学校)の眺望です。右手前は先月見事に紅葉していたナンキンハゼですが、落葉がだいぶ進んでいました。やがて、園全体の木々が冬の装い(冬木立)に変貌していきます。

 上記以外の美しい風景の写真もアップしています。
     …> 季節のスケッチ(28年12月)

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2016年12月 3日 (土)

12月初旬、黄金色に輝く都心のイチョウの黄葉


 小春日日和の12月初旬の週末は、都心のイチョウの木々も見事に黄葉し、黄金色に輝いていました。


 本郷通りに面する東京大学正門を入ると、奥の安田講堂まで黄金色のイチョウ並木が続いています。安田講堂の時計台がイチョウの黄葉のすき間から垣間見えます。


 工学部6号館の前の中庭に、日本の機械工学、造船業の発展に貢献したCharles Dickinson West の像が設置されています。わが国は明治維新後、殖産興業を目指し海外から多くの研究者・技術者を招聘しましたが、Charles Dickinson West はその一人。アイルランド生まれで、英国のバルケンヘッド造船所設計技師長から明治15年に来日。以降25年間、東京帝国大学で船舶用機関学を担当し、海軍や民間の造船技術者を養成。


 Charles Dickinson West の像が設置されている工学部6号館の前の中庭の真ん中にイチョウの大木が生えています。この時季は美しく黄葉し、格好の撮影スポットになっています。


 重要文化財に指定されている朱塗りの東大赤門です。江戸時代、加賀藩が将軍家から姫を正室に迎えた際に建立された建造物。赤門の周りのイチョウの木も黄葉が見頃でした。


 丸の内の和田倉門交差点付近の風景です。東京駅から皇居前までの行幸通りの街路樹にイチョウの木が用いられています。


 この時期、イチョウの黄葉と周りの高層ビル群とが美しくコラボしています。この高層ビルは東京海上日動の建物です。


 和田倉門交差点付近の皇居外苑地区の一角に和田倉門噴水公園があります。オブジェと噴水もすっかり晩秋模様に囲まれていました。


 和田倉門交差点を南北に走る通りが日比谷通りです。この日比谷通り沿いには、ヤナギやイチョウの街路樹が植えられています。


 日比谷通りを北に進むと、お茶の水の聖橋付近に屋根の丸みが特徴的なギリシャ正教会の建物のニコライ堂が建っています。この付近の街路樹もやはりイチョウの木で、ニコライ堂が黄金色に輝いていました。


 四ツ谷駅近くの迎賓館赤坂離宮も晩秋の風情です。迎賓館は明治時代、一流建築家や美術工芸家が総力を挙げて建設した日本における唯一のネオ・バロック様式の西洋風宮殿建築で、世界各国からの国賓、公賓がこの迎賓館に宿泊します。迎賓館では接遇に支障のない時期に、館内を一般に公開しています。

 …> 季節のスケッチ(28年12月)


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2016年12月 2日 (金)

活躍するMEMS(メムス)~身の回りでもSociety5.0でも


 MEMS(メムス)というと聞き慣れない用語かも知れませんが、実はモバイル機器、自動車等の私たちの身の回りの製品の中に数多く組み込まれている必須デバイスです。MEMSとはMicro Electro Mechanical Systems(微小電気機械システム)の略で、半導体製造技術やレーザー加工技術等、各種の微細加工技術を用いて微小な電気要素と機械要素を一つの基板上に組み込んだ米粒や豆粒ほどの大きさのデバイスのことを言います。

 MEMSと半導体デバイス(LSIなど)はどちらも同じような大きさで外見上よく似ていますが、働きが少し違います。すなわち、半導体デバイスは入出力が電気信号で、人間の頭脳のような高速計算や大容量の記憶などの働きに秀れていて、コンピュータの中枢デバイスとなっています。一方、MEMSは入出力が電気信号に限定されず、エネルギーや機械変位、物理量など多岐に亘り、人間の五感器官のようなセンシング(センサ)、筋肉部のような動作(アクチュエータ)などの様々な働きをします。

 (図1)MEMSの概念図


 例えば、モバイル機器のスマホでは高性能化・多機能化を実現するため、モーションセンサ、MEMSマイクロフォン、無線センサ、環境センサなど盛沢山のMEMSがスマホ内の狭小な空間の中にぎっしりと組み込まれていて、MEMSのかたまりのようなものです。また、自動車も同様です。エンジン制御のための圧力センサ、姿勢制御のためのジャイロ、エアバック感知のための加速度センサなど多くのMEMSが使われていますし、今後は自動運転のための各種MEMSセンサが増大していくと予想されます。

 (図2)スマホで使われるMEMS


 さらには、数次のMEMSに係る先端技術開発プロジェクトの研究成果等が基盤技術として蓄積・活用され、スマホ、自動車に限らず多くの製品やシステムへの先進MEMSの応用が広がっています。

 (図3)広がる先進MEMSの応用


一方、政府の第5期科学技術基本計画においてSociety5.0(超スマート社会)の実現に向けた取り組みが提唱されていますが、Society5.0の実現には近年注目を集めるIoT(あらゆるものがインターネットでつながる)システムが欠かせません。このIoTシステムの中でもMEMSが重要な役割を果たしていくことになります。

例えば、工場を対象としたIoTシステムでは、実世界(工場現場)の状況を適確かつ迅速にデータ収集(センシング)し、収集したデータをクラウド上に集め、ビッグデータ技術やAI(人工知能)を用いて設備管理や生産管理に役立つ経営情報に変換する、そして経営情報を実世界(工場管理、経営)にフィードバックする、といった流れになります。この流れの中で実世界とクラウドを結ぶセンシングの局面においてMEMSが主役となります。

 すなわちMEMSを用いた多様な産業用途のセンサ、環境からエネルギーを自力で調達する自立電源、データを無線で飛ばす無線モジュールなどをまとめて搭載した小型センサ端末(これもMEMSのかたまり)が工場の各所に配置され、工場の様々な稼働状況をリアルタイムにモニタリングし、クラウドに収集データを送り出します。

今年度からNEDO委託事業の高効率スマートセンシングシステム(LbSS)の研究開発も始まりました。近い将来Society5.0を支え、元気に活躍するMEMSの姿を見ることができるようになります。乞うご期待。

(図4)Society5.0/IoTシステムで活躍するMEMS


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注)本稿は、JRCMニュース(2016年12月号)への寄稿文に加筆修正を加えたものです。

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