産業・経済・技術

2017年1月 1日 (日)

謹賀新年2017 - 海図なき不透明な世界へ

 輝かしい2017年の新年を迎えました。おめでとうございます。まず、仕事面では賀状の文面にもありますように、今年もSociety5.0(超スマート社会)の実現、第4次産業革命への貢献の努力を続けていきたいと思っております。

         〔2017年賀状の文面〕

 一方、世界は先が見えない混沌の時代に入ってきました。近年の中東・シリア等の国々からの大量難民のEU流入に端を発し、昨年はEU各国で難民排斥を主張する極右勢力の台頭、ISによる無差別テロの頻発、英国のEU離脱の国民投票可決(ブレグジット)などEUの秩序を揺るがすような驚くべき出来事が相次ぎました。さらに、このような風潮は「世界の警察」の役割を担う米国にも飛び火し、10月の大統領選挙では何とメキシコとの国境に巨大な壁を構築するとか、自国産業を保護するため自由貿易推進のためのTPPから自ら離脱するといった極端な主張を唱え続けたトランプ候補が当選しました。

 世界全体として、従来の多民族の共生、グローバリズムなどの民主主義の普遍的な価値の下で封印されていた不寛容、内向き指向、ポピュリズムなどのダークサイドの思潮が表舞台に一気に噴き出してきた感があります。また、世界秩序のゆらぎを見てロシアが覇権を求める動きを加速させていますし、経済大国の中国は、依然としてバブル崩壊のリスクを抱えながら領土拡張の野心を隠そうとしていません。

 このような不透明な国際情勢の中で、わが国は安全保障を確保し、経済再生を実現することが国是となっていますが、政治力、外交力、経済力、技術力など総力を結集した取り組みにより、豊かな未来を拓く新たな海図づくりが急務となっています。

 最後に、プライベート生活では近いうちに8人目の孫誕生が予定されています。末広がりで充実したスローライフを過ごせればと念じています。今年もよろしくお願いいたします。


| | コメント (0)

2016年12月 2日 (金)

活躍するMEMS(メムス)~身の回りでもSociety5.0でも


 MEMS(メムス)というと聞き慣れない用語かも知れませんが、実はモバイル機器、自動車等の私たちの身の回りの製品の中に数多く組み込まれている必須デバイスです。MEMSとはMicro Electro Mechanical Systems(微小電気機械システム)の略で、半導体製造技術やレーザー加工技術等、各種の微細加工技術を用いて微小な電気要素と機械要素を一つの基板上に組み込んだ米粒や豆粒ほどの大きさのデバイスのことを言います。

 MEMSと半導体デバイス(LSIなど)はどちらも同じような大きさで外見上よく似ていますが、働きが少し違います。すなわち、半導体デバイスは入出力が電気信号で、人間の頭脳のような高速計算や大容量の記憶などの働きに秀れていて、コンピュータの中枢デバイスとなっています。一方、MEMSは入出力が電気信号に限定されず、エネルギーや機械変位、物理量など多岐に亘り、人間の五感器官のようなセンシング(センサ)、筋肉部のような動作(アクチュエータ)などの様々な働きをします。

 (図1)MEMSの概念図


 例えば、モバイル機器のスマホでは高性能化・多機能化を実現するため、モーションセンサ、MEMSマイクロフォン、無線センサ、環境センサなど盛沢山のMEMSがスマホ内の狭小な空間の中にぎっしりと組み込まれていて、MEMSのかたまりのようなものです。また、自動車も同様です。エンジン制御のための圧力センサ、姿勢制御のためのジャイロ、エアバック感知のための加速度センサなど多くのMEMSが使われていますし、今後は自動運転のための各種MEMSセンサが増大していくと予想されます。

 (図2)スマホで使われるMEMS


 さらには、数次のMEMSに係る先端技術開発プロジェクトの研究成果等が基盤技術として蓄積・活用され、スマホ、自動車に限らず多くの製品やシステムへの先進MEMSの応用が広がっています。

 (図3)広がる先進MEMSの応用


一方、政府の第5期科学技術基本計画においてSociety5.0(超スマート社会)の実現に向けた取り組みが提唱されていますが、Society5.0の実現には近年注目を集めるIoT(あらゆるものがインターネットでつながる)システムが欠かせません。このIoTシステムの中でもMEMSが重要な役割を果たしていくことになります。

例えば、工場を対象としたIoTシステムでは、実世界(工場現場)の状況を適確かつ迅速にデータ収集(センシング)し、収集したデータをクラウド上に集め、ビッグデータ技術やAI(人工知能)を用いて設備管理や生産管理に役立つ経営情報に変換する、そして経営情報を実世界(工場管理、経営)にフィードバックする、といった流れになります。この流れの中で実世界とクラウドを結ぶセンシングの局面においてMEMSが主役となります。

 すなわちMEMSを用いた多様な産業用途のセンサ、環境からエネルギーを自力で調達する自立電源、データを無線で飛ばす無線モジュールなどをまとめて搭載した小型センサ端末(これもMEMSのかたまり)が工場の各所に配置され、工場の様々な稼働状況をリアルタイムにモニタリングし、クラウドに収集データを送り出します。

今年度からNEDO委託事業の高効率スマートセンシングシステム(LbSS)の研究開発も始まりました。近い将来Society5.0を支え、元気に活躍するMEMSの姿を見ることができるようになります。乞うご期待。

(図4)Society5.0/IoTシステムで活躍するMEMS


 -------------------------------------------
注)本稿は、JRCMニュース(2016年12月号)への寄稿文に加筆修正を加えたものです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年10月 8日 (土)

大隅良典東京工業大栄誉教授がノーベル賞(医学・生理学賞)を受賞


 10月に入って今年のノーベル賞(医学・生理学賞)にオートファジー(自食作用)の仕組みを解明した大隅良典・東京工業大栄誉教授が授与されることに決まったという嬉しいニュースが飛び込んできました。



 〔大隅教授とオートファジー研究〕(東工大HPより)


 日本人の受賞は昨年の医学・生理学賞(大村智氏)、物理学賞(梶田隆章氏)に続き3年連続となります。米国籍を含め、日本人受賞者は25人。単独受賞は1949年の湯川秀樹氏(物理学賞)、1987年の利根川進氏(医学・生理学賞)に次いで29年ぶり3人目となります。

 大隅教授は、27年前に酵母のオートファジーを発見して以来、一貫してその分子機構の解明を目指して研究を進めてきており、世界に先駆けた遺伝学の適用による酵母のオートファジー遺伝子(ATG) の同定は、それまでのオートファジー研究を一変し、今日の爆発的な研究領域の展開の切っ掛けとなっています。今回の受賞は、このオートファジー研究が評価されたもので、医学・生理学賞の選考委員は「生命科学の根源的な発見で、がんやパーキンソン病などの病気の治療研究に貢献する」としています。

 近年多くの日本人研究者がノーベル賞を受賞していて、同じ日本人として誇らしい気持ちになりますが、気になる指摘を紹介しておきます。すなわち、一次選考でノーベル委員会が研究者や過去受賞者に呼びかける推薦状の日本からの返信率が他国と比べて非常に低いとのことで、日本人の受賞確率が低くなる要因として、ノーベル委員会委員がこの点に苦言を呈しているそうです。今後もノーベル賞受賞のため、日本全体としての一層の努力が必要なようです。

| | コメント (0)

2016年3月19日 (土)

人工知能囲碁ソフト(アルファ碁)が世界のトップ棋士を圧倒


 囲碁のAIソフトのアルファ碁が世界のトップ棋士である韓国のイ・セドル9段を4勝1敗で撃破したという驚きのニュースが広まっています。まさに晴天の霹靂といった感じで、囲碁ソフトがここまで強くなり人間の頭脳を超えつつある現実に大きな衝撃を受けました。


 将棋の世界では将棋ソフトの進化が著しく、ここ数年トップ棋士と互角以上の勝負を展開していますが、将棋よりも考慮すべき要素の数が圧倒的に多い囲碁の世界ではまだまだ人間が優勢と言われ、ようやく4年前に囲碁ソフトのZenが4子のハンディ戦でもって武宮正樹9段を破ったレベルでした。4子のハンディとは、プロ棋士とアマ県代表クラスとの実力差に相当しますので、人間に追いつくのはだいぶ先の話と誰もが信じていた矢先です。

 それなのに、人工知能恐るべしです。たちまちアルファ碁が人間の頭脳を超えるようになってしまいました。ウィキペディアによると、アルファ碁の学習はGoogle Cloud Platformのコンピュータ資源(CPU1202個、GPU176基)を使用しています。また、アルゴリズムはディープニューラルネットワークを実装した「value network」と「policy network」によって動くモンテカルロ木探索法を用いています。学習の方法は、まず膨大な棋譜の記録を学習した後、自分自身との何度もの対戦を行うことでさらに能力を高めているとのことです。

 わが国トップ棋士の井山裕太6冠は、アルファ碁が3連勝後の時点での朝日新聞の取材に対して、「第1局から第3局まで、インターネットの生中継で観戦しました。こんな結果になるのは想像できなかった。ただアルファ碁の実力を知るデータが少なすぎるので、ひょっとしたらという気持ちがあったのも事実です。ほんとに急に出てきた。こんなに早く、これほどの実力で打てるようになるなんてショックです。囲碁の長い歴史の中で、もしかしたら一番というくらいの棋士に勝ち越した。これはものすごいこと。人間を超えたと思われても仕方のない結果。僕自身はイ・セドル九段が5連敗したら、そう判断します。残り2局に注目したい。」と率直な感想を述べています。

 なお、人工知能研究の世界では今回のアルファ碁の快挙について、囲碁は以前は当時のテクノロジーでは力の及ばない機械学習における難問であると見なされていたため、今回の成果は人工知能研究における画期的な進展として注目されています。今後の人工知能の多方面への活用が大いに期待されます。


| | コメント (0)

2014年10月 8日 (水)

日本人研究者3人(赤崎、本間、中村)がノーベル物理学賞を受賞


 今年のノーベル物理学賞受賞者に青色発光ダイオード(LED)を開発した赤崎勇・名城大教授、天野浩・名古屋大学教授、中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授の3人が選ばれました。


(左から赤崎勇、天野浩、中村修二の各氏)


 今回の受賞理由は青色発光ダイオード(LED)の開発ということですが、約20年前に開発されて以来、応用製品が広く行きわたるようになってきて、現在私たちの身の回りで、信号機、LED電球、ブルーレイDiscなどあまりにも日常的に青色発光ダイオードが使われています。

 こんな状況の中でノーベル賞受賞のニュースを目にした時に、ケチをつける気持ちは毛頭無いのですが、何か今さらといった驚いた感じがありました。しかしながら、最近のノーベル賞は研究成果の実用化面が重視されるようになり、どれだけ人類の福祉向上に寄与したがか勘案されると聞き、それならばぴったりの受賞かと思い直しました。

 いずれにしても大変明るいニュースです。私たち技術開発の世界に身を置くものにとっては、特に朗報です。将来ののノーベル賞を目指す多くの若い研究者・技術者たちの大きな励みになります。受賞の3名の先生方、本当におめでとうございます。

 ところで、日本人のノーベル賞受賞者 はこれで22名となりました(内訳は、物理学賞10名、化学賞7名、医学生理学賞2名、文学賞2名、平和賞1名)。経済発展が著しいお隣の中国は文学賞1名のみ、韓国はいまだ受賞者なしという状況です。わが国はダントツに誇らしい技術力を有しており、この力を有効かつ戦略的に活用して今後のわが国の国際競争力強化、国際貢献の展開に繋げていくようにすることが肝要かと思います。



| | コメント (0)

2014年5月29日 (木)

健康イノベーションと革新センサーについて


 昨日、Facebook上で「あなたのイノベーション大募集」を見つけましたので、健康問題について自分の思うところを投稿しました。その投稿記事の内容を一部編集して紹介します。

 最近、「今後の生活習慣病の増大が膨大な医療費負担を生じさせる」といった論調のテレビ番組をよく見かけます。わが国の健全財政にとって大問題になりかねません。しかしよく考えてみれば、国民一人一人にとって長い人生を楽しく過ごすために健康維持は極めて大事なことですので、極端なことをいえば、国の財政がどうこう以前に、とにかく健康でありたいと願うのが人間の根源的な欲求です。従って、話は単純で国民が健康ライフを送ることができるようにすれば、結果的に国の財政も救われることになり、めでたく国民と国がWin-Win関係を築くことができます。

 そこで、健康に重大な影響をもたらす生活習慣病を予防する仕組みの提言がいろいろとなされています。例えば、各人から収集した健康データをビッグデータ化して、お医者さんの診察やテーラーメイド医療に活用するなどのビジネスモデルの議論が活発に行われています。この時に忘れてならないのが、各人の健康状態を「常時モニタリングするセンサーがまだ存在しない」という事実です。私たちは通常年1回の健康診断のデータを受けるだけなので、今は長い時間の中のほんの一瞬の健康状態の断面を見るだけなのです。例えば不整脈の発生は連続したデータがないと発見が不可能です。

 このため、私たちの日常生活の中で、非侵襲・非拘束のまま、そして試薬も使わずに「自然にさりげなく」健康データを取得できる革新センサーの出現が強く望まれています。このような「健康を透視する」革新センサーは、もちろん存在しません。この革新センサーの登場によって、初めて健康管理のビジネスモデルに魂が入ることになります。まさに、この革新センサーの開発こそが「健康イノベーションの神髄」です。相当な技術的ブレークスルーを必要とすることから、国の積極的な支援を期待したいと思います。


   [出典:社会課題対応センサーシステム先導研究HP)]



| | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年2月 7日 (金)

BEANSプロジェクト終了1年、BEANS研究者が未来を拓く


BEANSプロジェクトが終了して早くも1年
 早いもので、筆者が係わったBEANSプロジェクト(2008年~2012年)が終了して、約1年経ちました。BEANSプロジェクトは、ナノテク、バイオテクノロジーなどの異分野技術と従来のMEMS技術とを融合させることにより、革新的次世代デバイス(BEANSデバイス)の創出に必要となる基盤的プロセス技術群を開発し、そのプラットフォームを確立することを目的として5年間遂行され、多大の成果を生んで 2013年3月末に終了しました。
      → BEANSプロジェクトの発足 (2008.9.3)
      → プロジェクト終了にあたり (2013.2.12)

 今後はプロジェクト研究成果の実用化が進み、「環境・エネルギー」、「医療・福祉」、「安全・安心」分野等における新しいライフスタイルを創出する革新デバイス・応用システムが次々と出現していくことが期待されます。



 BEANSプロジェクトの成果を普及するため、BEANS技術研究センターが設置され、BEANSパテントショップBEANS知識データベースの運営がなされていて、国プロ終了後の成果普及の新たな取り組みとして注目されています。



高いプロジェクト評価を受ける
 昨年末にNEDOから公開されたプロジェクト事後評価報告書においても、高い評価を受けました。以下、総合評価部分を原文のまま紹介します。
 バイオ技術とIT 技術等の異分野技術を活用した新しい機械の創造という目標は、挑戦的で今後日本の先端機械技術の国際的地位を決める上で重要であり、NEDO プロジェクトとして実施した意義は大きい。

 本プロジェクトは、これまでの縦割り構造社会を打破した異分野融合プロジェクトとして日本のこれからの新しい産業を創造する製造技術という観点から非常にチャレンジングであるにもかかわらず、技術レベルの高い研究成果が得られており、様々なMEMS 応用分野での産業技術としての発展が期待できる。また、本プロジェクトを通してMEMS/NEMS 技術の最先端研究を担う若手研究者が多数育成されたことは大いに評価できる。

 但し、産業化への要素技術としては良いが、開発技術が既存の技術や製品と比べて優位性があるかは疑問が残る。今後、広く他の高機能デバイスに活用するためには、開発したプロセス技術を他の競合技術と比較しその利点・欠点をより明確にすることが必要である。実用化には開発プロセス技術のポテンシャルを俯瞰的に示すプラットフォーム技術マップが有効となると考えられ、そのためには当該プロジェクトで開発したデータベースをさらに整備・改善し、継続的に維持する努力が必要である。


先端科学の革命児はBEANS研究者
 ところで、さる2月2日放映のNHKのサイエンスZEROの番組に、東大生産技術研究所の竹内昌治准教授が「先端科学の革命児」として出演していました。

 大胆な発想で先端科学に革命を巻き起こすユニークな研究者たちを特集するということで、竹内准教授が生きた細胞で人形や編み物を作ったり、細胞をひも状に加工して病気の治療に役立てようという驚きの最新研究についてのリポートでした。

 さらに、番組では医療応用だけでなく、食肉を細胞から作るようにすると家畜を使わずに畜産ができるようになる等、夢のような将来展望が語られ、大いに盛り上がっていました。


[NHK WEBより]

 実は、この番組で先端科学の革命児と紹介された竹内准教授はBEANS研究者です(でした)。彼の研究内容は次のブログ記事 (2009.2.3)に紹介されています。


 上述の事後評価報告書に「本プロジェクトを通してMEMS/NEMS 技術の最先端研究を担う若手研究者が多数育成されたことは大いに評価できる」との記述ありましたが、その通りです。竹内准教授を始め、多くのBEANS若手研究者たちがプロジェクトから巣立ちました。彼らが各研究分野で活躍され、科学技術の発展、わが国経済の再生、さらには人類の福祉向上に大きく貢献していくことを希っています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年2月 1日 (土)

第3の万能細胞 「STAP細胞」発見の快挙


 1月30日、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの若い女性研究者小保方晴子ユニットリーダーらが、ES細胞(胚性幹細胞)、iPS細胞(人工多能性幹細胞)に続く第3の万能細胞「STAP細胞」を作製することに成功したと発表しました。このビッグニュースは直ちに国内外を駆け巡りました。

 マウスの実験で細胞に強い刺激を与え、様々な組織や臓器に変化する「万能細胞」を作製したということで、29日付の英科学誌「ネイチャー」に掲載されています。



[NHKニュースより]



 そもそも、動物の体は1個の受精卵が分裂と変化を繰り返し、成長していくもので、いったん血液や皮膚、脳、内臓など体の組織や臓器になった細胞は、他の細胞に変化することはないとされていました。

 この定説を覆したのが京都大学の山中伸弥教授で、2006年マウスの細胞に4種類の遺伝子を入れて細胞の状態を受精卵に近い状態に戻し、どのような組織や臓器にもなる多能性を持たせることに成功しました。この細胞はiPS細胞と名付けられ、この功績で山中教授は一昨年にノーベル賞を受賞しています。

 一方、今回の小保方研究チームは、外部からの単純な刺激だけで細胞の役割がリセットされる「初期化」が起こり、あらゆる組織、臓器に変化する「多能性」を獲得することを発見したもので、実際にはマウスからリンパ球を取り出し、酸性の溶液に約30分間漬け、そして、特殊なたんぱく質を加えて培養すると2~3日で多能性細胞に変化し、さらに神経や筋肉の細胞になることを確認したということです。

 いわば「コロンブスの卵」のようなあまりにも簡単な手法で万能細胞(STAP細胞)が作製されるため、これまで何回英科学誌「ネイチャー」に投稿しても、「科学を愚弄している」という理由で不採択になっていたそうです。STAP細胞の作製はiPS細胞よりも簡単で、効率が良く、iPS細胞の課題であるがん化のリスクも低いとみられます。

 今後、STAP細胞を人間でも作れれば、iPS細胞と同様、医療や創薬への応用が期待できます。小保方さんは「STAP細胞ができる仕組みを調べ、初期化の度合いを操作するなど、次世代の細胞操作技術を開発したい。老化やがんの研究にも貢献できる可能性がある」と話しています。

[理研のプレスリリースより]

今回発見されたSTAPによる初期化は、全く従来は想定していなかった現象である。その原理の解明は、幹細胞や再生医学のみならず幅広い医学生物学研究に変革をもたらすことが期待される。さらに、ヒト細胞への技術展開も今後の課題。

 STAP細胞発見のニュースは、一向に盛り上がらない都知事選のニュースに代わって連日マスコミやマスメディアでも大きく取り上げられています。もちろん、研究内容の素晴らしいことが最大の理由ですが、これと同時に、研究代表者の小保方さんがまだ30才の若い女性研究者いわゆる「リケジョ」だったことも大きな要因になっています。ちょうど2002年に会社の「ふつうの技術者」だった田中耕一さんがノーベル化学賞を受賞した時と同じように、爽やかな風が日本列島を吹き抜けたようです。白衣ではなく割烹着を着たかわいらしいリケジョがとんでもない発見をさらりとやってのけたという快挙に喝采を送りたいと思います。そして今後のSTAP細胞の実用化に期待しましょう。

 また、アベノミクスの成長戦略の中では「女性の活躍」が一つの柱になっています。今後若いリケジョたちに小保方さんに続いて欲しいと思いますし、全国の働く若い女性たちにも大いに輝いて欲しいと願っています。

  • 【追 記】
  •  後日、iPS細胞で2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥・京都大教授は、STAP細胞の作製について、「画期的な成果。オールジャパンで研究を進めるべきで、いくらでも協力する」と話し、「京大iPS細胞研究所の若い研究者と小保方さんが協力すれば、細胞が受精卵のような状態に戻る『初期化』の謎について、大発見ができるかもしれない」と期待を寄せています。  (2月6日読売新聞朝刊より)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年1月31日 (金)

今なお新鮮に輝き続けるRWCプロジェクト(1992年~2001年)


(RWCPメモリアルを大幅リニューアル)
 1992年から2001年までの10年間にわたり、明日を拓く情報基盤技術として実世界知能分野と並列分散コンピューティング分野に研究資源を集約して遂行されたリアルワールド・コンピューティング・プロジェクト (Real World Computing Project) ですが、その足跡を記録したRWCPメモリアルプロジェクト10年史をこのたび大幅にリニューアルしました。



 2004年に当時残されていたCD記録集をもとに、筆者が取り急ぎHP化したサイトですが、このたびデザインを一新しました。体裁、フォント、ナビ等を改良してかなり利便性が高まりました。

(RWC技術は高度情報化社会の根幹をなす重要技術)
 今回の改訂作業にはかなりの労力を要しましたが、作業しながら改めてプロジェクト記録を読み返してみました。すると、予算面でも人員面でも相当な規模の研究開発が進められ、それぞれが超高速コンピューティング技術、光伝送技術、バイオコンピューティング技術、実世界計算技術、インターネット検索技術等々、すべて現在の高度情報化社会の根幹をなす重要技術群の先駆けになっていたことを再認識しました。

 終了時、プロジェクト推進委員長であった東京大学教授田中英彦氏は「現在、米国・欧州・アジアなどの世界各国が情報通信分野を国の戦略的基盤とし、研究に注力している。RWCプロジェクトはまさに世界が今後目指す次世代の情報基盤を支える戦略的技術と言えるだろう。」とその先進性と意義を説きましたが、今でもこのコメントは正鵠を射たものと思います。

 終了して14年になりますが、今なお新鮮に輝き続ける素晴らしいプロジェクトでした。筆者も短い期間でしたがこのプロジェクトに参画できたことに誇りを覚えます。

 また、本プロジェクトの遂行主体は技術研究組合新情報処理開発機構(RWCP; Real World Computing Partnership)でした。もちろんすでに解散していますが、プロジェクト10年史には技術研究組合の定款などの規約集や、各種会議などの運営の記録が詳しく整理されています。新しく技術研究組合を設置する場合には大いに参考になるものと思われます。

(開発成果のまとめの紹介)
 以下、膨大な資料の中からプロジェクトのまとめ(総論)の部分の記述を紹介します。RWCプロジェクトの足跡の一端を垣間見ることができます。
 (RWC NEWS Vol. 18  Dec. 2000 より)

1.総論
 本プロジェクトでは、実世界知能技術分野における情報統合と並列分散コンピューティング技術分野におけるシームレス並列分散コンピューティングという新しいパラダイムを提唱し、その実証システムを開発した。

 これは計算機・ネットワークの普及、半導体・光技術の進展などを見越したもので、今後の情報処理技術の新しい潮流を作るものと考える。(図1-1) . 現時点での技術開発レベルを分けて見た場合、大部分は、以下②、③のレベルであり、本プロジェクトにおける、要素技術の確立という当初の目的は、概ね達成できる見込みである。 ,①基本技術を開発中のもの ②基本技術をほぼ確立し、研究室内での実験・ 試用レベルにあるもの ③プロトタイプの試作を終え、応用分野・利 用者を捜しているもの ④既に中間成果に対して実用化が進んでいるもの特筆すべきは、内外から高い評価を受け、プロジェクト中途で中間成果の実用化・利用が進んでいて、既に④の段階に達しているものがいくつか存在することである。これはプロジェクトの当初目的を超えた成果であると考えている。

2.情報統合
 音声、動画、文書などの情報処理技術は、これまで別々に研究されてきたが、本プロジェクトでは、これらのマルチモーダル情報を統合して扱う新しい情報処理技術を研究し、多くの研究テーマを取り上げて、その有効性を世界に先駆けて実証した。

 具体的には、音声・動画・静止画・文書を生データのまま扱い、相互検索を可能とするCrossMediatorの開発、自律学習システムとしての事情通ロボットの開発、ジェスチャ、顔などの認識を含むマルチモーダルな対話システムの開発、手話認識などの実例が挙げられる。

3.シームレス並列分散コンピューティング
 シームレス並列分散コンピューティングシステムとは、LAN環境で接続された多数の計算機を単一計算機のイメージで使用できるシステムである。

 この技術により、パソコンと高速光ネットワークによるスーパーコンピューティング、大量情報に対するデータマイニングサーバなど高性能のネットワークサーバが実現でき、更に、ヘテロジーニアスな計算機上で動作するため、旧・新機種の混在やベクトルとスカラー計算機など異機種の計算機の協調も許される。今後のネットワーク社会でますます重要となる高性能、高信頼かつ経済性に富んだサーバ類の構築・利用技術を提供できよう。

 本システムのソフトウェア上の核となるグローバルOS(SCore)やコンパイラ(Omni OpenMP)はフリーソフトとして提供されており、普及が期待できるとともに、フリーソフトビジネスの新たなレパートリを創るものとして期待できる。更に、並列応用プログラムとして、PAPIA(並列タンパク質情報解析システム)、異種シミュレーション技術の融合、データマイニングなどの応用技術も開発した。

 また、並列分散コンピューティングにおいて重要となる光インターコネクションについては、世界最高の伝送能力を持つ大容量光スイッチング・インタフェースシステムを開発した。更に、100Gbps以上の伝送を可能とする将来の光インターコネクション技術として、高密度並列情報転送を可能とする面発光デバイスの試作などに成功した。

4.実用化・事業化
各研究室における研究成果は、多くの場合数年後に単品として、あるいは他のシステムに組み込んで使用される見込みである。

 既に実用化されているものとしては、
(1)実世界知能技術分野において、既に中間成果の製品化が行われているCrossMediator、商用LSIシステムに採用された動的適応デバイス技術など。

(2)シームレス並列分散コンピューティング技術分野において、世界各国でシミュレーション計算などのため実用されているSCore Software System(グローバル並列OS)、多くのサイトからダウンロードされて使用されているOmniOpenMPコンパイラ、WWWサイトを通じて世界中から利用されているPAPIAなど。






















| | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年1月 1日 (水)

謹賀新年2014、本格的な経済再生へ

 2014年の新年おめでとうございます。
 朝7時頃、わが家のベランダから初日を拝んできました。すべての人にとって、今年が平穏で幸多き年であることを祈念申し上げます。

 さて、昨年来の大胆な金融政策、機動的な財政政策及び成長戦略の三本の矢による一体的な取組みにより、消費等の内需を中心とした景気回復の動きや企業収益の増加による雇用・所得環境の改善の動き等、いわゆるアベノミクス効果が徐々に浸透してきています。

 今年は、この景気回復の動きを本格化させる年です。わが国経済を支えるいろんな産業が力を結集して成長戦略に沿った発展を目指すことで、見事に経済再生を成し遂げられると思っています。私の仕事上の関連が深いナノ・マイクロ分野においては、MEMSデバイスの応用・普及が着実に進展しています。現在の国内市場規模が1兆円弱で、今後も年率2桁の成長が見込まれています。

 私どもの周りでも、例えば自動車、スマホ、タブレットの中では加速度センサー、圧力センサー、MEMSマイクロフォン等のいろんなMEMSがふんだんに使われており、今や製品の小型化・高機能化に必須のデバイスとなっています。さらに、最近では社会インフラの老朽化、少子高齢化社会の進展等のわが国が直面する大きな社会課題を解決するツールとして、MEMSセンサーや自立電源、無線機能を組み合わせたセンサーネットワークシステムが注目されていて、このための技術開発プロジェクトの動きも本格化しつつあります。

 今年も、このようなナノ・マイクロ分野の産業発展のダイナミズムを各企業のビジネス展開にしっかりと取り込むことができるよう、迅速な製品開発をサポートするオープンイノベーションセンターの整備や産学連携による先端技術に関する研究開発プロジェクトの推進等の産業活性化を支える活動を行っていきたいと思います。

 そして、これらの活動がわが国の経済再生、強い経済の復権に少しでも役立つことを希っています。

  …> 季節のスケッチ「26年1月」


| | コメント (0) | トラックバック (0)