4月5日~6日の週末、箱根に出かけた折りに仙石原にある箱根湿生花園を訪れてきました。これまで湿生花園は何回か訪れていますが、この時期は2度目で4年ぶりになります。園内は群生するミズバショウをはじめ色んな山野草が咲いていましたが、前回見過ごしてしまった幾つかのスプリング・エフェメラルと出会うことが出来たのは大きな収穫でした。また、箱根からの帰途は小田原に立ち寄り、サクラが満開の小田原城を眺め、そして本場の蒲鉾や干物をお土産に買い求め帰路に着きました。
【箱根湿生花園】
湿生花園内は季節毎に色んな山野草が咲き、いつもでも楽しめるようになっています。4月上旬のこの時期は湿地に群生するミズバショウ(水芭蕉;サトイモ科ミズバショウ属)が見頃になっています。ミズバショウは雪の多い日本海側や高山に分布し、雪の少ない箱根には自生しません。ミズバショウの近縁種の
ザゼンソウ(座禅草;サトイモ科ザゼンソウ属)も何株か見かけました。
ミズバショウの群生地で、所々に鮮やかな黄金色のエゾノリュウキンカ(蝦夷立金花;キンポウゲ科リュウキンカ属)を見かけました。本州北部や北海道などに分布する多年草で、茎は直立しやや大きめの花を多数咲かせます。また、谷川に群生し春の柔らかい葉を食するのでヤチブキとも呼ばれます。
園内では山野草だけでなく、樹木の花々も咲いています。これは玄界灘近くの山地に多い落葉低木のゲンカイツツジ(玄海躑躅;ツツジ科ツツジ属)。園内で最初に咲くツツジです。この日はゲンカイツツジ以外にも、
シデコブシ、
マメザクラ、
ミツマタなどが開花していました。
いつ来ても湿生花園は山野草の宝庫になっていますが、特に春のこの時期は一斉に花が咲き始め、生命の息吹を感じることができます。これはカタクリ(片栗;ユリ科カタクリ属)の花。6枚の花びらが反り返っていて、まるで春の陽光の下で森の妖精たちが背中の羽根を羽ばたきながら遊んでいるように見えます。
春先に開花し夏まで葉をつけると、あとは落葉広葉樹林の林床などの地中で過ごす一連の野の花を総称してスプリング・エフェメラル Spring Ephemeral
と呼びますが、カタクリは典型的なスプリング・エフェメラルです。春先に花を咲かせた後、夏までの間に光合成を行って地下の鱗茎や種子に栄養分を蓄え、その後は春まで地中の地下茎や球根の姿で過ごすというライフサイクルを持ちます。
白色や薄紫色の一輪の花はキクザキイチゲ(菊咲一華;キンポウゲ科イチリンソウ属)です。キクに似た花を一輪つけることからこの名が由来し、キクザキイチリンソウとも呼ばれます。本州近畿地方以北から北海道に分布し、落葉広葉樹林の林床などに生育します。キクザキイチゲもスプリング・エフェメラルの一種。
ミスミソウ(三角草;キンポウゲ科ミスミソウ属)。雪の下でも常緑であることからユキワリソウ(雪割草)とも呼ばれます。本州の中部以西の山間地に多く生育し、葉は常緑で三角形に近く三つに分かれています。
珍しいヒトリシズカ(一人静;センリョウ科チャラン属)の花を見つけました。茎の先に1本の穂状花序を出し、ブラシ状の小さな白い花をつけて群生していました。花穂を2本以上出すのが近縁種のフタリシズカになります。ヒトリシズカは北海道、本州、四国、九州に分布し、山地の林内、林縁に自生します。静御前の舞う姿を彷彿させることからこの名が付いています。
ショウジョウバカマ(猩々袴;ユリ科ショウジョウバカマ属)。北海道から九州までの、やや湿った場所に分布します。面白い名前が付いていますが、赤い花が中国の伝説上の動物のこ猩々(ショウジョウ)になぞらえ、根生葉の重なりが袴(ハカマ)に似ていることから由来するそうです。ショウジョウバカマもスプリング・エフェメラルの一種とされています。
イワウチワ(岩団扇;イワウメ科イワウチワ属)が岩場に密生していました。日本の固有種で、本州の中国地方以北の山地帯の林内や林縁に分布します。岩場に生え、葉の形状が団扇(ウチワ)に似ていることから和名が由来。
エゾエンゴサク(蝦夷延胡索;ケシ科キケマン属)を初めて観察しました。近縁種の
ムラサキケマン(紫華鬘)よりやや小振りです。エゾエンゴサクは北海道、本州北部の山地に分布する多年草で、ムラサキケマンと同様にスプリング・エフェメラルの一種。蝦夷に生え、地中の塊茎が漢方薬の「延胡索」に似ていることから和名が由来。
コシノコバイモ(越の小貝母;ユリ科コバイモ属)の可憐な花を見つけました。コバイモの仲間は生息地の名前が付くことが多く、コシノは越後地方の意味。コバイモの仲間は、草むらに普段に見かける
バイモよりもずっと小柄でスプリング・エフェメラルの一種です。コバイモには今回初めて出会いました。
やはりスプリング・エフェメラルの一種の多年草キバナノアマナ(黄花の甘菜;ユリ科キバナノアマナ属)が黄色の花を咲かせていました。地下に鱗茎(球根)があり、早春に葉と同時に花茎を出します。国内では北海道、本州中部以北に分布し、日のあたる草むらや田畑の土手、林の縁などに生育します。キバナノアマナも初めての出会いです。
シラネアオイ(白根葵;キンポウゲ科シラネアオイ属)。日本固有種の1属1種で、深山に生育する山野草です。和名は、日光白根山に多く、花がタチアオイに似ることから付きました。山芙蓉(やまふよう)や春芙蓉(はるふよう)の別名があります。花の正面から撮った写真がピンぼけで横からの写真になってしまいました。
北米原産のトキワナズナ(常盤薺;アカネ科フーストニア属)の小さな4弁花が密生して咲いていました。わが国には明治時代に渡来し、野生化しているものもあるようです。名前は常緑のナズナということになりますが、花の形状は
ナズナとは全然異なります。
湿地帯の畔でスギナ(杉菜;トクサ科トクサ属)の胞子体であるツクシ(土筆)を見つけました。よく見ると園内の随所にニョキニョキと立ち並んでいるのですが、周りの土や枯れ草と色が似ているので注意しないと見過ごしてしまいます。
これ以外にも、園内には色んな春の山野草が咲いており、この日は時間を忘れて歩き回りました。
【小田原城】
翌日は箱根から東京へ戻るわけですが、小田原城がサクラで満開なことを聞きつけ、途中小田原に立ち寄ってきました。あいにくと雨模様でしたが、それでも花見客で賑わっていました。小田原城は
昨年末に訪れたばかりですが、今回は年末とは違った素晴らしい春爛漫の趣を楽しんできました。
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